グアテマラ・アップデート 検事総長辞任を要求してゼネストー続く選挙後の緊迫 新川志保子

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汚職への怒り、無名候補が決選投票へ

 185号(2023年7月)で報告したように、今年6月グアテマラで大統領選挙が行われたが、どの候補者も過半数の得票がなかった。そのため上位2名(国民希望党(UNE)のサンドラ・トーレス(15%)とセミージャ(種の運動)党 のベルナルド・アレバロ(12.2%))で8月に決選投票がおこなわれることとなった。
 トーレスは、大統領夫人であったことがありその時社会プログラムの責任者だったし、その後も2回大統領選に立候補して政治経験は長く知名度も高い。が、同時にこれまでグアテマラ政界を牛耳ってきた「汚職同盟」の一部でもある。一方のアレバロは新しい革新政党から出馬し、国政経験がないが、これまでの汚職を一掃しなければならない主張した。ほとんど無名のアレバロが一気に第二位になったのは驚きをもって受け取られたが、それだけこれまでの政治の腐敗にうんざりして怒っていた有権者が多かったことの表れでもあった。

副大統領カレン・エレーラとアレバロ

 決選投票になることが決まった第一回投票の直後から、選挙結果を覆そうとする動きが出た。検事総長のコンスエロ・ポーラスはセミージャ党創設時の党員登録の不正をもとに政党要件を満たさないとして党としての法人格を停止させるよう申し立て、裁判所がそれを認め選挙最高法廷に命じた。これは数年前にセミージャ党がこれを告発していたのに調査もされず放っておかれたもので、これを逆手にとって検察がつつき始めたのだ。そもそもグアテマラでは「選挙と政党法」(グアテマラ憲法と同レベルにある)により、選挙最高法廷のみが、選挙に関わる問題を判断できる唯一の機関で大きな権限を持っている。下級裁判所はこのような判断を行う権限を持たないにもかかわらず判決を下したのだ。結局これは憲法裁判所まで行き、選挙期間中は法人格の剥奪を行わない決定となった。そのほかにも複数の政党から異議申し立てがあり票の数え直しを行うなど混乱した。ちなみに、ポーラスとこの判決を下した判事は米国の汚職公職者のブラックリストに載っている。

ベルナルド・アレバロ当選

 決選投票は無事に8月20日行われた。結果は、アレバロが2,441,661票(得票率60.91%)で1,567,472票(同30.09%)のトーレスを大きく引き離して勝利した。特に都市部でアレバロに投票する人が多かった。「勝者は無効票」と言われたほど抗議の無効票が多かった第一回投票に比べて、無効票はわずかであった。選挙最高法廷はこの結果を公式に認めた。選挙監視に入った国連や米州機構もこれを認めた。

検事総長の介入

左側が検事総長コンスエロ・ポーラス

 しかし検察は、組織犯罪と関わる刑事事件という名目で、選挙最高法廷や各地の選挙事務所、セミージャ党に強引な家宅捜査を繰り返した。検事総長のコンスエロ・ポーラスが命令したものだ。さらに検察はついには集計された投票用紙や、集計表他の選挙にかかわる重要な文書まで多数を押収したのだ。家宅捜索には過剰な数の警官が動員され、パトカーのナンバープレートが隠されていたり、検察官がマスクとサングラスという覆面状態で乗り込んだり、と内戦時代を彷彿させるような有様であった。ポーラスがここまで強引にやれるのは、その後ろにアレバロが大統領になると困る勢力がいるのは明白である。国内の非難はもちろん、国連や米州機構など国際社会から、検察の選挙への介入への批判と民主主義を懸念する声明が相次いだ。

ゼネスト始まる

道路封鎖

 これに抗議して、10月2日48カントネス (トトニカパン地域48の先住民コミュニティを束ねる組織。昔から途切れず継続してきたグアテマラでも代表的なマヤ先住民族の権威。大きな動員力を持つ)が選挙結果の尊重と検事総長らの辞任を要求して検察本部前に座り込みを始めた。これに全国の幅広いセクターの多くの人々が呼応した。抗議(プロテスタ)は燎原の火の如く広がり、ゼネストが始まった。
 首都でのデモや抗議行動と並行して、いくつもの重要地点で道路封鎖が始まり、毎日あちこちで市民や学生の参加が増えていった。これほど大規模な抗議行動はなかったというほどの規模で展開された。が、農民組織のCODECA以外の農民団体や先住民団体などの民衆組織は動員力を失っており資金もなく、組織としての参加ではなくメンバー個人が参加するという形になった。多くの労組、教組は政権の御用組合になってしまっており、ゼネストには参加せず、最大手の教組は組合員の参加を禁止したほどだった。
 次期大統領アレバロも、48カントネスの動きとは距離を保ちつつSNSで抗議を呼びかけている。
道路封鎖があちこちで始まると、政界、財界から「移動の自由の侵害」であるとして強制排除を要請する声が上がった。検事総長ポーラスは座り込みや道路封鎖を武力で強制排除させる命令を出させ、あわや流血の惨事が、と思われたが、これは内務大臣がデモの権利を尊重して対話を重視し、警官の火器不携行を命じて避けられた。ポーラスはこれに怒り、命令不履行で内務大臣を解任するように憲法裁判所に提訴したが、その前に本人が辞任、後継者もその姿勢を踏襲しており、今の所暴力事件に至っていない。
 ジャマティ大統領は、このような事態になっていてもなんらの手を打てず、米州機構に仲介を依頼した。これを受けてアルマグロ事務総長は、起こっている一連の問題の解決を困難にしているのは「これまでに例を見ない、不適切で、正当化できない、威圧的な」検察の対応そのものであり、本来の職務を遂行する代わりに一つの政党への弾圧をおこなっていると批判した。

解任できない検事総長

 抗議で第一の要求は検事総長の辞任である。が、数年前の法改正によって検事総長は解任させることができなくなっている。大統領は任命権はあるが、罷免権を持たない。権力の腐敗に切り込む時などは検事総長がその職務を果たすための強力な後ろ盾となるが、現在の総長のように、彼女自身が汚職、違法なことをやってもやめさせることができない諸刃の刃である。職務の中で不正・犯罪を犯し、これが有罪判決を受けなければ、職を解かれることはない。つまり事実上不可能だ。だから本人が辞任すると言わなければどうすることもできない。大統領や政権要職者らは同じ利害関係があるので、辞職の要請すらしていない。
 10月26日になると、二週間以上にわたって続いた道路封鎖はほぼ終わったが、抗議行動は続いている。48カントネスは戦略を変更して、首都に抗議行動を集中することになった。各地域の意思決定は、地域ベースなので異なるが、首都検察本部前の座り込み抗議行動は、10月2日からずっと維持されている。地方からも入れ替わり立ち替わり抗議にきている。
 このような状況のもと、最高選挙法廷は選挙期間の延長を検討することになったが、結局予定通り10月31日で終了とし、ここに選挙結果は確定した。が、同時にセミージャ党の法人格停止が実行されることにもなり、今後さらなる混乱も予想される。しかも、検察は職権濫用や職務違反などの名目で最高選挙法廷判事全員の不逮捕特権剥奪の審議を申請し、議会がこれを審議することになった。これが通れば選挙法廷の力が大きく削がれ、検察による「クーデター」がさらに進む状況も生まれる。

 アレバロの大統領就任は来年1月14日である。米州人権委員会はアレバロの暗殺計画が二件(うち一件については政府要人がかかわっているとしている)あるとして、グアテマラ政府に対し彼の安全を確保するように要請している。何もせずだんまりを決め込む大統領と居座り続ける検事総長、そして抗議は続く。アレバロが無事に就任まで漕ぎ着けたとしても、その後には難しい政権運営が待っている。【そんりさvol.186=2023.11】

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