さて、前回は突発的に横浜で開催されたペルー独立記念フィエスタでのクリオーヤ音楽をレポートしたが、今回はペルーで演奏されるエストウディァンティーナ楽団による音楽の魅力についてちょっと書いてみたい。
エストゥディアンテイーナというのは、音楽のジャンルというより、音楽を演奏するための編成を指す。オーケストラとかブラスバンドとかいうのに近い感じだ。日本ではほとんど知られていないが、かつてはラテンアメリカの広い地域で演奏されており、今でもメキシコやエクアドル、ペルー、ボリビアなどで演奏されている。先日あるコロンビア人と話している時にエストゥディアンティーナに賭が及んだことがあったが、ああ、古い音楽だねえ、とコメントされた。たしかにこの編成の起源は古い。もともとスペインで大学が出来始めた13世紀に学生たちが学費や食い扶持を稼ぐために始めたのがきっかけといわれている。そのため、学生(エストウディアンテ)にちなんでエストゥディアンティーナという名前で呼ばれているのだ。他にもトゥナなどとも呼ばれ、ペルーでもアヤクーチョなどでは大学のエストウディァンティーナ楽団がトゥナという名前を名乗っている。メキシコでは今でも学生が中心的に演奏しているようであるが、ペルーやエクアドル、ボリビアなどではむしろ町の名士たちが演葵する音楽としての側面が強い。そのためペルーでは、大きな古い町にはエストウディアンテイーナがあることが多い。人数的には4、5人から20人を越すものまでさまざまであるが、大綱成になると、セントロ・ムシカル(音楽センター)という名前がつけられることもある。
さて、では楽器の編成について見てみたい。エストゥディアンティーナの編成は、国によって少しずつちがうようである。ペルーでは、弦楽器であるギター、マンドリン、ベース・ギターなどを中心に少数のバイオリン、そして時には笛(多くはケーナやサンポーニャ)やアコーディオンなどが入ることがある。基本的にはなんでも演奏する、ということらしいが、多くはワイノ、マリネラや地元の祭りの音楽などを演奏している。現代的な音楽を演奏しているのは聴いたことがないので、その意味ではブラスバンドほど適応力があるわけではなさそうである。
では、そろそろ各地のエストウディアンティーナを紹介していこう。まず、エストゥディアンティーナが最も盛んな地域のひとつがプーノだ。各町々にエストゥディアンティーナ楽団を抱え、毎年県下の大規模なエストゥディアンティーナ・コンクールが行われて盛り上がる。町の年配者たちによるエストウデイアンティーナから、学校が持っているものまでさまざまだ。夜中まで満席ですごい熱気の中、演奏が繰り広げられるのは、見ていても楽しい。その中でも最も有名な楽団がセントロ・ムシカル・テオドロ・バルカルセルだ。テオドロ・バルカルセルは、20世紀前半に活蹟したプーノが誇るペルーを代表する作曲家で、プーノの民謡などをモチーフに多くの作品を発表した偉人である。この楽団のマリネラで奏でられるバイオリンの華麗さは他の追随を許さない。
クスコには80年以上の歴史を持つ有名なセントロ・コスコ・デ・アルテ・ナティーポというエストゥディアンティーナがある。コスコ(QOSQO)とは、クスコを本来のケチュア語で発音したものだ。こうしたエストゥディアンティーナで活躍する音楽家で、ソロや他の楽団で活殿しているメンバーも多いが、プーノとクスコのこの二つの楽団は、それぞれの地域最高と言われるチャランゴ奏者を擁していたことでも有名である。クスコのチャランゴ奏者フリオ・ペナメンテはすでに亡くなってしまったが、おそらくプーノのフェリックス・パニアグアは、現役かどうかはともかくまだ存命中ではないかと思われる。すこし脱線したついでに宣伝しておくと、このクスコのアルテ・ナティーポは、クスコのアペニーダ・ソルを郵便局の方に下って行ったところに専用の劇場を持っており、毎晩踊り付きで演奏を満喫することができるので、もしクスコに行かれたら一度このクスコのエストウディアンティーナを聴いてみてほしい。 残念ながら紙面がなくなってしまったが、そのほかにもフニン地方ではエストゥディアンティーナ・ペルーなどが有名だ。アヤクーチョではタンバリンが入るなどちょっとスペインの影響が他の地域のエストゥディアンティーナよりも色濃く残った演奏をしているトウナ・ウニペルシタリア・サン・クリストバル・デ・ワマンガを聴くことができる(それでも演奏しているのはワイノなどであるが)。【そんりさvol.104(2006.11)】
「音楽三昧♪ ペルーな日々」は「ソンリサ92号」(2004.11.6)から連載しています。
過去のソンリサの一部はPDFで購読できます。
https://recom.r-lab.info/sonrisa/#164
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