音楽三昧♪ペルーな日々【2】華麗なるクリオーヤ音楽の魅力 バルス編 水口良樹

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 リマの旧市街で毎週末に行われる無料コンサートを聴きに行くと、いつもペルー音楽の素晴らしさに撃ち抜かれてしまう。音楽自体の素晴らしさももちろんだが、何より音楽が人の生活の中で本当に生きていることを肌身で感じることができるからだ。リマの旧市街で週末に行われる無料コンサートの野外ステージでは、音楽を愛する人々が老若男女を問わず集まって歌に聞きほれ、ちゃちゃを入れ、笑い、踊っている。そしてその野外コンサー
トの中心が、今日これからお話しをするムシカ・クリオーヤと呼ばれる音楽なのである。
 ではまずこのクリオーョとは何かというと、簡単に言うとペルーの海岸部の白人系住民のことを指す。文化的には、時に黒人文化なども含み、海岸文化や海岸部の特に都市居住の人々などの総称としても使われる言葉である。
 クリオーヤ音楽とは、このクリオーョたちによって担われた海岸都市部に花開いた音楽文化だ。時代と共に、さまざまな音楽がその中心をしめてきたが、ここ1世紀近くは、パルスと呼ばれるいわゆるワルツ歌騒が不動の地位を保っている。それまでにも、ヤラビ、タンゴ、ボレロ、マリネラ、ポルカなどさまざまな音楽が演奏されたが、パルスは、世紀初頭以降、一貫して中心的存在であり続けた。
 クリオーヤ音楽は、下町の庶民たちのフィエスタで生み出され、発展した。ハラナと呼ばれる踊りのためのよりリズムを強調した音楽は、歌と相まって彼らの生活に密着し、なくてはならない音楽として独自の発展をしてきた。初期のサロン音楽的なゆったりしたワルツから、下町の狭いスペースで踊られるうちに曲のスピードも速くなり、小刻みな複合的なリズムへと発展し、8分の6拍子的なノリを麹得していった。そのため、打楽器が入るとそれだけで音楽がぴしっと締まる。華麗なギターやピアノの装飾にのせてカスタネットが打ち鳴らされただけで、心が浮き立つというものだ。そしてパルスの主役はなんといっても歌である。この人々はこのパルスの歌に酔い、泣き、時に笑い、祖国を思い、そして人生を思う。パルスは、ペルーの海岸都市部において、歌い、踊られることによって、人々の心をひとつにする役割を担ってきた音楽である。1980年代以降は、そうした中心的地位を、サルサなどのグローバルなダンス音楽へと譲りつつあるが、それでもバルスの人気は高く、名だたる大物歌手が人々の心をとらえて離さない。とくに近年は、より黒人色を強くすることで、バルスも現代化し、社会の動向に柔軟に変化してきているのが興味深い。
 それでは、このパルスを中心とするクリオーヤ音楽の代表的な歌手たちを紹介していこう。


 まず、その最も初期の頃から数多くの録音を残したヘスス・バスケスをあげたい。可憐な歌声と洗練された演奏で人々を魅了し、非常に長いキャリアを持つ彼女は、パルスやポルカ、マリネラといったクリオーヤ音楽を歌わせるとビカイチだ。サロン音楽の時代の面影を残す演奏から、トリオの時代のギターをバックにした演奏、そしてジャズ的なテイストを取り入れた曲など、その編曲の多様さも大きな魅力である。
 また、ロス・モロチューコス、エンバハドール・デ・クリオーヨ、ロス・キプスなどに代表されるギタリストたちのパルスも忘れてはいけない。メキシコのトリオなどに影響を受けながら20世紀半ばに全盛期を迎えたこうしたギターグループは、歌とギターだけという編成で、非常に魅力ある演奏を多く録音している。また、多くのギタリストがこのトリオの時代に有名になっている。


 そしてチャブーカ。チャブーカ・グランダは作曲家としてもクリオーヤ音楽随一であるが、その洗練された音楽や歌い方は、現代でもなお色あせない、まさにペルー音楽の金字塔的存在である。彼女の代表作「ニッケの花(フロール・デ・ラ・カネーラ)」は、日本にも早くから入ってきており、往年のタンゴファンなどを中心に愛好された。
 こうした白人系クリオーヨたちの音楽に対し、1950年代以降になると、黒人系の人々が合流し始める。名ギタリスト、オスカル・アビレスによって見いだされたサンボ・カベーロやルシーラ・カンポスなどから、サクセスストーリーとしても伝説となり、その歌声で人々を魅了し、若くして天折した悲劇の歌手ルーチャ・レジェスまで、黒人系のパルスも人々に深く愛されている。
 そして現代を代表する歌手としては、前回も述べたエバ・アイヨンやセシリア・バラサなどが、アフロ的でポップス的なノリをも消化した現代的なパルス音楽を展開し、喝采を浴びている。その他にも、数多くの録音に参加してきたギタリスト、ぺぺ・トーレスがハラナの箱神をもって録音した「ぺぺ・トーレスとその友達たち」というアルバムなどは、クリオーヤ音楽の魅力を余すところなく伝える名演であろう。
 このようにパルスは、さまざまな纒成やアレンジで多様化し、時代時代のニーズに応えて、柔軟に変化し続けることで、ペルーを代表する音楽として不動の地位を守ってきた。このすばらしい音楽を、ぜひ一度聴いてみてほしい。 さて、次回はペルーの国民的音楽として広く愛され、ラテンアメリカ各地でも演奏されるマリネラについて、語りたいと思う。お楽しみに。【そんりさvol.93(2005.1)】

「音楽三昧♪ ペルーな日々」は「ソンリサ92号」(2004.11.6)から連載しています。
過去のソンリサの一部はPDFで購読できます。
https://recom.r-lab.info/sonrisa/#164

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