音楽三昧♪ペルーな日々【1】 ペルー音楽の話を始めよう 水口良樹

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 多くの人がペルーというと、アンデスやそこで蘇らす先住民を想像し、歴史の〉好きな人は、「ああ、インカの国だ」と思い、政治や国際情勢に関心のある人は「フジモリという日系人が大統領をしていて、日本大使館が占領された国だⅡ」〉と考えるだろう。そして、ほとんどの人が、ヨンドルは飛んでいく」の国というと、「おお、それこそペルーだアンデスだ」と納得してくれる。
 しかし、私がここで語りたいのは、果たしてコンドルがどこまで飛んで行くかというような話ではなく、コンドルだけにとても納まり切らない広大なペルー、そのさまざまな畷境の中で育まれた音楽についてである。ペルー音楽は非常にバラエティーに画んでおり、外来の音楽もペルーに入ってくるとたちまちペルー的にアレンジされ、土藩化する。この「ペルー化」が、ペルー音楽をより魅惑的にしている大きな要索ともいえるのだ.
 ペルーは、大きく分けて三つの地域に分けることができる。そしてそれぞれに特徴的な音楽がある。太平洋岸砂漠地域には、征服者である白人系住民(クリオーヨ)や、奴隷としてつれてこられた黒人や混血たちによるクリオーヨ音楽や黒人音楽が歴史を持っている。また、アンデス山岳地域には先住民系住民や、白人との混血であるメスティソたちの山岳先住民の流れを強く受けた音楽文化が、そしてアマゾン熱帯雨林地域にも独特の先住民音楽や、入植クリオーヨ達による音楽文化が今なお発展しながら展開している。この地域色豊かな音楽文化は、民族音楽からポピュラー音楽、果てはクラシックなどにまで途切れなく連なり、ペルーという重層的音世界を作り出している。
 こうした中から面白く、素晴らしい音楽たちをつまみ食いのように紹介していくことがここでの私の目的である。その音楽の多くは地域社会の内部で流通しており、世界的に展開しているものはわずかである。最近、コアなファンに向けて日本でもインターネットなどでかなり現地の音楽を購入できるようになってきたので、できるだけ日本で手に入る音源などの中から紹介できればというもくろみだ。
 今日は第1回ということで、私が初めてペルーに行った歳衝撃を受けたべルーの現代クリオーョ音楽の女王ともいえる歌手との出会いから話し始めたいと思う。


 まだペルーに曰も浅いある曰、ある町の食堂で昼食を食べている時、突然店で流れていたラジオの音楽が私の耳に飛び込んできた。タンゴ歌曲やシャンソンに通じる、非常に切なくて胸に迫るメロディー。それでいて洗練された音楽。パルス(ワルツ)だ。ワルツというと、イメージは三拍子のブンチャッチャというやつだが、まったくちがう。黒人的な複合リズムを取り入れたペルーのスタイルへと発展しており、超かつこいいのだ。胸打ち震わして私は、店のセニョーラに誰が歌っているのかと尋ねた。「エバ・アイヨン」彼女は答えた。店を出ると、私はさっそく市場にカセットを買いに行った。その曰の夜から彼女の歌は私の頭から離れなかった。これが在りし日の私のクリオーヤ音楽との出会いであった。
 エバ・アイョン。名実共にペルーを代表する歌手である。ヨーロッパ起源の白人系歌謡と黒人歌謡をミックスさせて歌うことによって現在の名声を得た彼女の歌は、ふくよかで熱い。そして鋭利だ。1970年代以降のクリオーョ音楽の低迷を、黒人音楽との融合を図ることで打開し、90年代以降の隆盛を作り上げてきた彼女は、今も第一線で輝いている。
 それ以来、私はパルスを聞き漁った。繊細に霞えるギターや複雑なリズムを叩き出すカホヌ箱型打楽器〉やカスタネット。そして、なにより情熱的で官能的な歌。そのインパクトは私を海岸地域の音楽への興味へと駆り立てた。次回からしばらくクリオーョ音楽から黒人音楽へ連なる海岸音楽を紹介していきたいと思う。
 この連戦では、こうしてペルー音楽に魅せられていった私の視点で、ペルー音楽の魅力を紹介していきたい。ボリビアやアルゼンチン、チリなどと比べるとペルー音楽の知名度は低い。ブラジル音楽やカリブ音楽と比べると、もうなす術もないほどの格差がある。しかし、だからといって音楽が果たして貧弱かというと、それはまったく別の問題である。ペルー音楽は奥深い。そして幅も広い。それぞれの音楽が融合し、しかし一つにはならず、多様は多様のまま、それでいて混滑を重ねているのである。様々な文化の折り重なるペルーは、まさに音楽の宝庫であり、本当に素晴らしい音楽が数多く、息づいている国なのである。
 ビバ! ペルー!【そんりさvol.92(2004.11)】

「音楽三昧♪ ペルーな日々」は「ソンリサ92号」(2004.11.6)から連載しています。
過去のソンリサの一部はPDFで購読できます。
https://recom.r-lab.info/sonrisa/#164

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