ミゲル先生のメキシコ食巡り メキシコ風トマトスープ SOPA DE TOMATE A LA MEXICANA

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 まず、はるか昔のメキシコの住人を訪ねてトマトの起源を見てみましょう。
 古代のマヤ人はトマトを P’AAK(パアク)と呼びました。アステカ人はナウアトゥル語(今もメキシコ中央部で話されている)でJICTOMATL(ヒクトマトゥル)と呼んでいました。JICTOMATLは、「太っている」を意味する TOMAL あるいは TOMOUACQUE と、「水」を意味する ATL からできています。つまりトマトは「太った水」という意味です。

 メキシコの多くの地方では、赤いトマトをJITOMATE(ヒトマテ) 、メキシコ中部で主に栽培される緑のトマト(ホオズキのような殻がある)をTOMATEと区別しています。ユカタン半島では、緑も赤もすべてTOMATEと呼び、マヤ語の「パアク」と呼ぶ人もいます。
 TOMATEは、スペイン人の征服者が16世紀初頭にヨーロッパに持ち帰った際に使った名称で、JICTOMATLが縮まったものです。
 トマトは、スペインやイタリアですぐに受け入れられましたが、他の多くのヨーロッパの諸国の人々は、怖れて口にしようとしませんでした。トマトは、キイチゴの実(mora)やdulcamara(ビタースイート=ツルナス)、lsolanaceas(Wild Tomatoナス科)のような雑草の一種であり、これらの植物のなかにはマンドラゴラ(マンドレイク=恋なすび)やベラドンナ(ナス科=幻覚を起こす)のような毒草も含まれていたからです。
 また「愚か者の実」とも呼ばれ、強い催淫効果があるとされ、フランス人は“pomme d’amour” (愛のリンゴ)と名づけました。イギリス人は観葉植物として栽培しました。
 その他のヨーロッパの国々では、19世紀半ばから徐々に広まり、現在ではすべての国で栽培されています。メキシコとスペインは、主要なトマト輸出国であり、両国で全世界の輸出量の40%を占めています。
 トマトは94%が水分ですが、ビタミンやミネラルがもっとも豊富な果物・野菜のひとつであり、鉄分やナイアシン、マグネシウム、カリウム、ビタミンB2、リン、ビタミンB1、ナトリウムも含んでいます。消化もよく、100グラムのトマトで21カロリーという低カロリー食品でもあります。
 トマトはなぜか、ずっと以前から「野菜のスーパースターの王様」と称されてきました。
 知られているだけで千種類もあり、品質と収量を向上させたり、病気への耐性を強め栄養価を高めたりするため、多くの国で交配され新品種が生みだされています。卵型や球形、細長いソーセージ型、桃の形、チェリーの形、苺の形、立方体……と形状もさまざまで、色彩も、赤、緑、黄色、バラ色のほか、黄・赤・白の縞模様がはいったものなどさまざまです。
 食べ方も多彩です。生食、薄切り、缶詰、ソース、焼く、煮込む、乾燥させる、ジュース、ジャム、スープ、魚の詰め物(トマトの中身をくりぬき、マヨネーズでツナの缶詰などを詰める)……などなど、数え切れません。多彩な形や色があるトマトは、独特の味や色合いを全世界の料理に与えています。だからこそ「野菜のスーパースターの王様」なのです。
 酸味と甘みの絶妙なバランスをもったトマトの味は、ほかの野菜・果物では代替できません。そんな「王様」がこの世に存在しなければ、多くの国々の料理は重大な影響を被っていたことでしょう。
 メキシコ料理のサルサは今ほど美味ではなくなるし、スープや煮込み料理、サンドイッチも、独特の味を失います。多くのチリソースの缶詰も存在しえません。 フィデオ(ショートパスタ)やスパゲティ、タリアテーレ(パスタの一種)などの料理も色あせ、風味を失います。ピザやパスタ、カッチャトーレ、ミネストローネ、ピッツァイオーラ、オッソ・ブーコはどうなってしまうのでしょう?
 米国のハンバーガーやホットドッグも、ケチャップがなければ今の味にはならないし、スペイン人はガスパチョを今ほど楽しめなくなるでしょう。ギリシャ人とトルコ人は、子羊の肉と一緒にトマトを金串に刺して焼いて食べています。コスタリカのモンドンゴ (牛のもつと野菜の煮込み)にもトマトは不可欠です。日本のオムライスにもケチャップは欠かせません。インドやインドネシアなどアジア諸国では、トマトをベースにしたさまざまな香辛料・調味料を活用しています。
 私の故郷ユカタンでも、魚介類のセビチェのおいしさはトマトなしにはありえません。古代マヤ文明の時代から受け継ぎ、地域の料理文化の一部である「サルサ」を利用した多くの料理も同様です。
 トマトは、肉でも魚介類でも卵でもソーセージでもベーコンでも一緒に料理できます。「万能」だからこそ、全世界で食されているのです。【そんりさvol.116(2008.11)】


▽材料(4人前)
・トマト中 2個
・ 鶏肉(小さく刻む) 50グラム
・ タマネギみじん切り 大さじ2
・コーンチップス(totopos)4枚
・塩 3つまみ程度
・粉末の白コショウ
・水 600cc
・コリアンダーみじん切り 大さじ1

▽作り方
①トマトを細かく刻み、タマネギと鶏肉、塩と一緒に弱火で30分煮こむ。
②深めの皿にそそぎ、totoposを指で砕いて入れる。細切れにしたコリアンダーを加える。

つくってみたら

 ミゲル先生のスープ料理はいっさい「鶏がらスープ」などをつかわない。なのにおいしいのは、トマトをたっぷりつかうから。トマトはうまみ成分のグルタミン酸が豊富で、肉にふくまれるイノシン酸といっしょになると、相乗効果でさらにうまみが増します。じっくり加熱するのもうまみをひきだすためのようです。

「ミゲル先生のメキシコ食巡り」は「そんりさ vol.113」(2008.6)から連載しています。
 過去のソンリサの一部はPDFで購読できます。
 https://recom.r-lab.info/sonrisa/#1

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